2021.10.27 UP

kippis mag. キッピスの「分け合う」webマガジン

障がいのある職人たちがつくる、“超絶かわいい”石けんのひみつ
【その1】

kippis mag. キッピスの「分け合う」アクション1_障がいのある職人たちがつくる、“超絶かわいい”石けんのひみつ

温かみのあるモチーフと洗練されたカラーで、kippisのテキスタイルを表現した石けん。純植物性の原料を使った肌に優しいソープは、バスアイテムブランド「li’ili’i(リィリィ)」とのコラボによって生まれた。

li’ili’iの商品はすべて、障がいのある「職人」たちが一つひとつ丁寧にハンドメイドでつくり上げている。商品が生まれる現場を訪ねた。

石けん工房を訪ねて。プロフェッショナルな職人たちの仕事

神奈川県小田原市穴部。目の前に川が流れる、田んぼに囲まれたのどかな場所に、li’ili’iを展開する株式会社リンクラインはある。

kippisのパートナー企業であるリンクラインは、2010年に障がい者の“社会的な自立”を目的に設立された特例子会社。知的や発達、身体や精神。種類や重度もさまざまな障がいのある29名のメンバーが働いている。

※特例子会社
障がい者雇用促進法に定められた会社であり、障がい者の能力や就業条件に応じた環境整備など特別な配慮を行い、一定条件を満たした場合に公共職業安定所長が認定する。

kippisの石けんに入れられるいちごのパーツ。手作業で種を描き、実とヘタを組み合わせていく。
kippisの石けんに入れられるいちごのパーツ。手作業で種を描き、実とヘタを組み合わせていく。
花のモチーフの花糸や葉脈は、注射器のような道具で描かれる。
花のモチーフの花糸や葉脈は、注射器のような道具で描かれる。

それぞれの持ち場で黙々と作業が進められていく。美味しそうなフルーツが並び、漂う甘い香りも相まって、ケーキを製造するお菓子工場のよう。

ひとつの石けんが出来上がるまで、一人ひとりのきめ細やかな手仕事が幾重にも重ねられていた。

石けんの枠を飛び越えた豊かな表現力、繊細な手先の技術力、高い集中力。リンクラインでは障がいのあるメンバーのことを「職人」と呼ぶが、仕事に向かう姿はその言葉にぴったりと符合する。

「彼らは本当にすごいんですよ。僕も一緒に作業することがあるんですが、間違ってるって指摘されちゃうこともありますから。え、どこが?!って自分ではわからない。それくらい細かなところまでこだわり抜く、根気と集中力がある。

作業は基本分業で、日替わりのローテーション。1日6〜7時間作業をするんですが、僕らが止めないとやり続けちゃう職人もいるくらいで。多いときは手作業で1日1000個の石けんができますよ」

と、石けん工房を案内してくれた取締役の青野真幸さん。工房では、「管理者」と呼ばれる健常者のスタッフも混じって作業をしているが、そこには上下も境界線もない。

専用のヘラでいちごのかたちを整えていく人。
専用のヘラでいちごのかたちを整えていく職人。

「ここでの仕事は、ぜんぶ楽しい」

作業をする職人さんに仕事について尋ねると、そんな答えが返ってきた。創業時から10年以上働き続けているメンバーも少なくない。障がいのある人たちがいきいきと長く働き続ける職場は、どのように築かれてきたのか。

浮き沈みがあってもいい。“人としてしっかり向き合う”日々

右からリンクライン代表取締役の神原薫さんと取締役の青野真幸さん
右からリンクライン代表取締役の神原薫さんと取締役の青野真幸さん

「障がいのある彼らにやりがいを持って仕事をしてもらうことは創業当初からの願いでした。最初はOEMでメーカーさんに発注された商品づくりだけをしていたんですが、障がいのある彼らが表に立つ機会がない。彼らが主役になるものづくりをしたくて、li’ili’iを始めたんです。完全ハンドメイドの石けんは、職人たちの個性が反映されていて、ひとつとして同じものはありません。完璧じゃないけど、機械では出せない味わいとぬくもりがあると思うんです」

そう話すのは、代表取締役の神原薫さん。親会社であるIT企業で管理部門の人事部長を務めていたときに特例子会社の話が持ち上がり、自ら手を挙げ、同僚だった青野さんに声をかけて、2010年にリンクラインを創業。6年後の2016年に自社ブランドli’ili’iをスタートした。

li’ili’iの主力商品、フルーツキャンディバーソープ。PLAZAや東急ハンズ、LOFTほかオンラインサイトでも販売中
li’ili’iの主力商品、フルーツキャンディバーソープ。PLAZAや東急ハンズ、LOFTほかオンラインサイトでも販売中

「僕らは福祉の経験ゼロ、まったくの素人でした。だからこそ固定観念にとらわれず新しい挑戦ができたのかもしれません。福祉の勉強をしていて、ほんとうにそうなのかな?って思うことが多々あって。たとえば知的障がいのある人にはこうサポートしてあげましょうって言うけど、杓子定規で一辺倒な考え方はどうなんだろうって疑問に思うんです。

もちろんそれぞれの障がいの特性は理解しておく必要があるんだけど、彼らも僕らと同じひとりの人間ですから。障がいはひとつの側面でしかなくて、それぞれに個性や想いがある。だから僕らが一番大事にしていることは、ひとりの人間として彼らとしっかりと向き合うことなんです」

“人としてしっかりと向き合う”──言葉にするのは簡単だけれど、実践するのは難しいようにも思う。神原さんたちは日々、障がいのあるメンバーとどのように向き合っているのか。

「たとえば新卒で入ってきたメンバーには、『なぜ働かなくてはいけないのか』から伝えていきます。具体的には、『親御さんはあなたより先にいなくなる。生活をしていくためにお金を稼ぐ必要があるんだよ』と。できるだけわかりやすい言葉で根気よく言い続けていますね。

僕らもそうですが、彼らにとっても働くことはストレスが多いので、帰りたいと言うこともあるし、逃げ出しちゃうこともある。そういうときは一緒になって考えて、気分が切り替えられそうだったら働こう、難しかったら明日出直そうって伝えていて。一瞬一瞬の凹みがあっても長い目で見て、働き続けることができればいいんじゃない、って思っています。

創業から10年以上経ちましたけど、いまだにどんちゃん騒ぎ。マンネリな日々が続かない。毎日ドラマがありますよ」

そう語る神原さんに、青野さんも言葉を重ねる。

「気持ちが落ち込んだから帰りたい、休みたいって、嫌やなって思ったら彼らは素直に行動するんでね。人間ですからそりゃあ波はありますよ。大きな声では言えないけど、就業中の息抜きに魚釣りに行ったこともあるし、バドミントン大会が始まったこともあった。メンバーが逃げ出して、1日がかりで捜し回って。競輪場で見つけて連れ戻そうとした神原が警備員から職務質問を受けた、なんてこともありました。今では笑い話ですけど、焦りましたね」

右からリンクライン代表取締役の神原薫さんと取締役の青野真幸さん

メンバーと温泉やディズニーランドに行ったときの思い出を楽しそうに語ってくれたおふたり。

「僕らの石けんを使ってくれている箱根の老舗400年の旅館が休館日を開放してくれて、みんなで泊まりに行ったんです。温泉で、何人かのメンバーが背中を流してくれて。いつもお世話になっているからって。嬉しかったですねえ」(神原さん)

「あと、初めて黒字になった記念に、小田原からバスを借り切ってディズニーランドに行ったときも、メンバーが『リンクラインでよかった』『夢が叶った』って喜んでくれて嬉しかった。到着してすぐみんな駆け出して行っちゃって、僕らだけぽつんと残されて寂しかったけど(笑)」(青野さん)

神原さんと青野さんはメンバーに「いつでも連絡していいよ」と連絡先を伝えていて、夜中の3時に想いの丈を綴った長文のLINEが届くこともあるそう。休みの日に連絡を受けて行方不明のメンバーを捜しにいくことも。オンオフ昼夜問わず、“人としてしっかり向き合う”ことに妥協はない。

「大変ではありますけど、その分喜びも大きくて。彼らと過ごしていると生きてるって実感が湧くんです。彼らは忖度なしで、むき出しの感情をぶつけてくるんで、僕らも妥協はできない。褒めるときはとことん褒めるし、叱るときはしっかり叱る。遠慮はしません」(神原さん)

手のひらにのる小さな石けんの背景には、障がいのある職人さんたちのプロフェッショナルな仕事、そして伴走するスタッフの熱い想いがあった。次回は、ある職人と親御さんの物語をお伝えする。

別の部屋では、薬事の責任者で最年長者だというメンバーふたりが、パウチした石けんを精巧な金属探知機にかけて、安全性を確認。
別の部屋では、薬事の責任者で最年長者だというメンバーふたりが、パウチした石けんを精巧な金属探知機にかけて、安全性を確認。
さらに奥の部屋ではラッピングと検品が行われている。
さらに奥の部屋ではラッピングと検品が行われている。

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取材・執筆 徳 瑠里香 RURIKA TOKU

編集者・ライター。
1987年、愛知県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。出版社にて、書籍やWEBメディアの企画・編集・執筆を行った後、オーガニックコスメブランドのPR等を経て、独立。著書に『それでも、母になる-生理がない私に子どもができて考えた家族のこと』(ポプラ社)がある。

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