2021.10.27 UP

kippis mag. キッピスの「分け合う」webマガジン

障がいのある職人たちがつくる、“超絶かわいい”石けんのひみつ
【その2】

kippis mag. キッピスの「分け合う」アクション1_障がいのある職人たちがつくる、“超絶かわいい”石けんのひみつ

kippisとバスアイテムブランド「li’ili’i(リィリィ)」のコラボによって生まれたかわいい石けん。北欧のテキスタイルを閉じ込めた肌に優しいソープは、障がいのある職人たちが一つひとつ丹念に手作業でつくり上げている。

職人たちのプロフェッショナルな仕事ぶりと支えるスタッフの想いを伝えた【その1】に続き、今回は、あるひとりの職人にスポットを当て、親子の物語をお届けする。

【その1】はこちら

10年以上勤務する努力家、Mさんの変化

神原さんと青野さんらスタッフの本気の姿勢に応えるように、メンバーも日々成長していくと言う。創業時から11年勤務するMさんもそのひとり。自閉症スペクトラム障がいで、対人関係への障壁、こだわりや興味の偏りといった特性があるそう。

「Mくんは穏やかな性格で、自ら主張するタイプではないけど、今では現場のリーダーも務めています。僕らは意欲さえあれば、半歩ずつでも成長できるから失敗してもいいよって、どんどん仕事を任せるようにしているんですが、彼の意欲はすごいですよ」(神原さん)

「Mくんは毎日往復2時間半かけて通勤しているんですが、ほんとうに努力家で。僕は不器用だからと言って、ラッピング用のリボンを家に持って帰って結ぶ練習もしているんです。見てくださいって持ってくるんだけど、リボンがボロボロになるほど練習した痕跡が残っていて、やりすぎちゃうかって思うくらい」(青野さん)

お昼休みに入っても最後まで残って自分の持ち場の片付けを丁寧にしていた

石けん工房で、お昼休みに入っても最後まで残って自分の持ち場の片付けを丁寧にしていた姿が印象的だった。

Mさんの変化は、28年ともに歩んできた親御さんも感じている。

「リンクラインで働き始めてからすごくしっかりして驚きました。計画を立てて物事に取り組むことも身に付きましたし、人にまったく興味を示さなかった子が仲間の話をするようになった。とても繊細なので合わない場所にはいられないけど、ここは心地がいいみたいであっという間に10年が経って。息子はとても楽しそうに働いていて、嫌だと言ったことは一度もありません」

やりがいのある仕事に励む、障がいのある息子。子育てを振り返って

Mさんのお母さま

「私はMの母であって、障がいのある子の親の代表ではないので」。そう前置きをして、Mさんのお母さまは、今に至るまでの子育ての話を聞かせてくれた。

「大変だったのは幼い頃、少し目を離すと自分が興味のある方へ行ってしまうこと。行方不明になったことは3回くらいありましたし、幼稚園バスから飛び降りて事故に遭いそうになったこともありました。ハラハラどきどき、危険から守らなきゃと気を張っていましたね。

勉強の遅れもあるし、人と交わらない。小学校高学年から中学ではいじめにも遭いました。様子を観察しながら、毎日こちらから質問をして、話を聞くようにしていて。学校にも出向いて先生方と密に連絡を取り合っていました。当時は息子を守るために必死でしたけど、今振り返ると、いざというときに親が味方になってくれるかどうか、一緒に闘ってくれるかどうかを子どもは見ていたんじゃないかなって思います。

ただ、特別なことをしたとは思ってなくて。下の娘に障がいはないけれど、別のことで同様に奮闘しましたし。障がいにもグラデーションがあるし、ひとつの個性と捉えて、子どもの特性に合わせて親としてできることをしてきた、という感覚が強いです」

とはいえ、まだまだ障がいへの理解が進まず選択肢が少ない日本社会。お母さまは親として、Mさんにとっての“いい環境”を探し求めてきた。

「特別支援学級に入るか、どの学校に進学するか。その時々で情報を集めて迷いながら決めてきました。就職も、小田原市の合同説明会でリンクラインさんに出合って、もともと内定をいただいていた会社があったのですごく悩んだんです。でも、本人に選ばせればいいって夫に言われてハッとして。両社で職業体験をした息子がリンクラインさんで働きたいと、初めてはっきり意思を持って選んだんです」

それから10年。Mさんは今もリンクラインで仕事に励んでいる。稼いだお給料は、家に入れる生活費と貯蓄分を確保して、残りは列車の旅など自分の好きなことに使っているそう。

「健康に平穏無事で過ごしてほしい。それが子どもに対する唯一の願いですが、息子は今、安心できる職場でやりがいのある仕事をして、休みの日は好きなことに没頭して、満たされている状況なんじゃないかなあ。

昔から列車が好きなんです。幼い頃は部屋中にプラレールを敷いて一緒に楽しんでいましたけど、大人になってからはふたりで鉄道の旅に出かけています。時刻表を見て調べてくれたり、頼りになるんです。いつも私のぼやきを聞いて慰めてくれますし。逆転していっていると言いますか、大変だった分の喜びを今まとめてもらっているような感じもしますね」

Mさんとお母さま

障がいがあってもなくても、当たり前に働ける社会へ

「障がいは本人に帰属するものじゃなくて、社会の側がつくっているものなんですよね。特別なものじゃない。僕ら健常者だって完璧ではないじゃないですか。できないこともたくさんある。僕らリンクラインは障がいのある人たちの選択肢をもっと増やしていきたいし、一般社会の中で当たり前のように働けるようにしたいんです」

青野さんは最後にそう語ってくれた。

「フルーツのパーツをつくるのがいちばん楽しい。もっと上手になりたい。これからもずっと、ここで働き続けたいです」

穏やかな笑顔で、そう話してくれたMさん。

一つひとつ手作業でつくられる温もりある石けんには、“障がい者の社会的自立”という夢が託されている。その信念に共鳴したkippisはリンクラインのビジネスパートナーになった。障がいがあってもなくても、当たり前のように働ける社会へ。kippisもそう願い、職人たちが丹念につくるかわいい石けんをこれからも届けていく。

石けん工房にて。職人とスタッフのみなさん
石けん工房にて。職人とスタッフのみなさん

取材・執筆 徳 瑠里香 RURIKA TOKU

編集者・ライター。
1987年、愛知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒。出版社にて、書籍やWEBメディアの企画・編集・執筆を行った後、オーガニックコスメブランドのPR等を経て、独立。著書に『それでも、母になる-生理がない私に子どもができて考えた家族のこと』(ポプラ社)がある。

kippis×li'ili'i オリジナルソープ