2022.02.21 UP

kippis mag

kippis mag.No.4 だからこの町に寄付したい。
kippisが北海道の小さな町、東川町に寄付をした4つの理由

kippisデザインのベビーアイテムやおむつなど
kippisベビーボックスの箱詰め作業を手伝ってくれた東川町「ももんがの家」の子どもたちと、ベビーボックス。ベビーアイテムと、親御さんのためのアイテムが詰まっています。

kippisブランドマネージャーの根本です。今回kippisは、北海道東川町の新生児が生まれた家庭に、ベビー用品やおむつなどがセットになった「ベビーボックス(子育てボックス)」を寄付することになりました。kippisデザインのスリーパーやスタイ、ブランケット、東川町で作られた木製の乳歯入れなど、全14アイテムが入っています。
今回は、プレスリリース配信後に寄せられた疑問の二つ目。「なぜ東川町に寄付するのか」にお答えしようと思います。
北海道のほぼ中央に位置する東川町は、1994年から2018年の間で人口が約20%増。 子どもは1.6倍に増加という、昨今の移住や2拠点暮らしがトレンドになるなかで、かなりの人気を集めている町です。「大雪山旭岳」の大自然が蓄えた雪解け水が、長い年月をかけて地中深くにしみこみ、ゆっくりと東川町に運ばれてくる天然水を生活用水にしているという、全国的にも珍しい、北海道でも唯一の「上下水道が無い」自然豊かな町でもあります。なかでもkippisが一番魅力に感じたのは、東川町の子育て政策のなかで、「デザイン」がかなり重要なものとして扱われていると感じたことです。その広大で豊かな自然を保有する土地の魅力を、デザインの力で最大限に発揮させている東川町。「北欧デザイン」のブランドとして、デザインの可能性を信じて活動している私たちとしては、大きな感動を覚えました。kippisが特に「すごい!」と感銘を受けて、東川町に寄付しようと考えた4つの理由を紹介します。

理由1東川町が17年来参加する“君の椅子”プロジェクト

誕生した子どもたちに、「旭川家具」の職人が手作りした椅子を贈る「君の椅子」というプロジェクトがあります。これは、旭川大学大学院の地域政策ゼミの提案でスタートしたもので、このプロジェクトに自治体として最初に参加したのが東川町です。「生まれてくれてありがとう」「君の居場所はここにあるからね」というキャッチコピーを持つこのプロジェクト。毎年変わる椅子のデザインには、中村好文氏、大竹伸朗氏、三谷龍二氏、河東梨香氏など名だたるアーティスト陣が参加してきましたが、それぞれがこのプロジェクトに込められたその思いに強く共感し、デザインを担当してきたそうです。
東川町の複合交流施設「せんとぴゅあⅡ」には歴代の「君の椅子」が展示されています。それを見ていると、「子どもが安心していられる場所づくり」ということにかける東川町の思いが伝わってきます。子どもの居場所がさまざまな形で狭められがちな現代において、それは優しくも鋭いメッセージのようにも思えました。

>歴代の「君の椅子」一部。
歴代の「君の椅子」一部。年によってデザイナーが変わり、その形もデザイナーそれぞれの個性が光る。写真/飯塚達央

理由2優しさを感じる、独自の婚姻届や出生届のデザイン

婚姻届といえば、新しく夫婦になった本人たちのウキウキワクワクをよそに、事務的に処理されるのが通常ですが、ここも東川は違います。婚姻届と出生届を洗練されたデザインの記念品として落とし込み、お渡しするセレモニー的なサービスを実施。このサービスを受けたいがために、東川を訪れるカップルもいるそうです。そしてその来訪は、東川を知ってくれるチャンスになります。それが関係人口にもなっていくでしょうし、移住につながる可能性もあります。ひとりひとりの人生の節目を大切にすることが、最終的な地域へのメリットにもつながる。そんな考え方が、素敵だなと思いました。

理由3広大な保育施設、先進的な建築の小学校、「本物」と日常を過ごす子どもたち…

東川町の幼保一元型施設「ももんがの家」正面。この写真では全く収まらないほど大きな間口の平屋建ての建物です。
東川町の幼保一元型施設「ももんがの家」正面。この写真では全く収まらないほど大きな間口の平屋建ての建物です。
「ももんがの家」の園庭。この広大さ、信じられません。
「ももんがの家」の園庭。この広大さ、信じられません。

都内の保育園事情に慣れている身からすると、東川町の保育施設には大きなカルチャーショックを受けました。東川町の幼保一元型施設「ももんがの家」を視察させてもらったのですが、園庭も園舎も広い! 東京には園庭のない保育園も多いというのに……。「ももんがの家」の建物面積は約2700平米。園庭も広く、400mトラックがすっぽり入ってもまだまだ余裕があるサイズ感です。園舎では「教室」「給食」「お昼寝」のスペースがそれぞれ別にとられているそうです。なんということ! 東京の私の息子の保育園では、すべてを同じ狭い教室で行っています……。さらに東川町の小学校の一つを訪問したところ、なんと教室には壁がありませんでした。270mの廊下で各教室がひと続きになった平屋の校舎。こんなに各教室の透明性が高く、風通しのいい校舎のデザインを見たのは初めてでした。学校に併設した地域交流センターの交流プラザに置かれた大きな大理石製のアート作品は、子どもが触ってもいいし登ってもいいそうです。この環境を求めて、都会から移住してくる子育て世帯が多いというのも非常に納得がいきました。
中心市街地にある複合交流施設「せんとぴゅあⅡ」に行ってみると、図書スペースではガウディ、フィン・ユール、ウェグナーなどデザインの巨匠たちの椅子が展示されているすぐ横で子どもたちが勉強しています。そしてその子どもたちが座っている椅子は、全国的にもファンが多い町内の家具工房で作られたものや、北欧デザインのものです。とにかく、町のあちこちに、驚愕の風景が広がっていて、質の高い「子どもの居場所づくり」に本気で取り組んでいることがわかります。

また、高校生を対象にした全国規模の写真甲子園を主催したり、豊かな自然環境を景観ととらえ、その美しさを保つための景観条例など、アートやデザインからアプローチする政策がさまざまありました。デザインが人の気持ちを元気にしたり、癒やしたりなど、気持ちを左右する大きな要素であるという考え方を、kippis同様に、東川町の方たちも共有しているのではないかと、勝手ながら思いました。

北海道出身の彫刻家・安田 侃氏作のオブジェ「意心帰」
北海道出身の彫刻家・安田 侃氏作のオブジェ「意心帰」。子どもたちが登って遊んでもいいそうです。アートと常に触れ合える遊び場です。
壁のない校舎
壁のない校舎。各教室はロッカーなどで仕切られているのみ。写真は共有のワークスペースで作業する子どもたち。

理由4不妊治療の助成がふんだんである。

これは、デザインからは離れる部分ですが、これも東川町のすごいところなのでご紹介します。今年4月から、厚生労働省が体外受精を含む不妊治療を保険適用対象とすることを発表しましたが、東川町は実に11年前の2011年に、第一子の体外受精の全額助成を開始(※夫婦の所得合計が730万円未満などの条件あり)。更にはプライバシーに配慮し、役場に来なくても病院だけで申請が完結します。
これは全国的にも珍しい手厚い制度です。そもそも体外受精というのは、本当に高額になるものなので、まず経済的な面でできる人、できない人が分かれてしまいます。正直、保険適用でも3割は負担しなければならないので、費用面ではまだまたキツい部分があると思います。そんな中、全額助成してくれるというのは不妊治療中のカップルにとって、かなりの安心材料になると思います。
現在、日本の働く女性が、妊娠に適した時期に子どもを妊娠・出産するのは至難のワザです。キャリアを積むために20代は仕事を頑張っているうちに、タイミングを逃すという女性は多いのではないでしょうか。ただこれは、女性個人のせいというよりも、 日本の労働環境や働き方の多様性が認められない風土など、社会全体の問題が影響している結果なのですが、どうしてもそのツケは女性に回ってくるという現状があり、そんな環境が女性たちを孤独にしてしまいます。妊娠・出産しながらでも、女性がキャリアを積んでいける労働環境を整えるのが理想ですが、今そこには妊娠・出産を希望し、出産のタイムリミットに焦っている夫婦がいる。だからこその、東川町の助成制度。従来の価値観にとらわれることなく、今そこにある問題に切り込んだ東川町の姿勢に、賛同しています。

子育てボックスは、「北欧柄で、子育てを楽しく!」がコンセプト。

kippisの柄を使ったスリーパーやスタイ、ブランケットをはじめ、必須のおむつ、また子育て中の親御さんに快適に過ごしていただけるようにスリッパや収納ボックスなど、全14アイテムが入っています。東川町で作られた、木工の町ならではの木製の乳歯入れも一緒に入っています。

協賛企業一覧※あいうえお順

株式会社アセット、一広株式会社、川辺株式会社、クラシエホームプロダクツ株式会社、彩之葉昭島株式会社、大王製紙株式会社、株式会社ダリヤ、株式会社ツクリエ、株式会社リンクライン

文:根本江利子(kippisブランドマネージャー)
写真:写真文化首都「写真の町」東川町